特定技能外国人材の評価制度の作り方|公平性と納得感を生む等級・給与テーブル設計
- sou takahashi
- 4 日前
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目次:
特定技能外国人を採用した企業の人事担当者から、こんな声をよく聞きます。
「日本人と同じ評価基準で良いのか分からない」 「昇給をどう判断すれば公平なのか悩んでいる」 「評価面談で言葉の壁があり、うまく伝えられない」
特定技能制度では「日本人と同等以上の報酬」が義務付けられていますが、実際の評価制度の設計では、言語や文化の違いを考慮した仕組みが必要です。
本記事では、外国人材が納得でき、企業にとっても公平な評価制度の作り方を、具体例とともに解説します。
1. なぜ特定技能外国人材に評価制度が必要なのか

公平性の担保が定着率を左右する
厚生労働省の調査によると、外国人労働者の離職理由の上位に「キャリアアップの機会がない」「評価基準が不透明」が挙げられています。特に特定技能外国人は、技能実習とは異なり即戦力として長期就労を前提としているため、明確なキャリアパスと連動した評価制度が欠かせません。
評価制度がないと起こる問題

法令遵守の観点からも必須
入管法では、特定技能外国人に対し「日本人が従事する場合の報酬額と同等以上」の給与支払いが義務付けられています。これは単に初任給だけでなく、昇給・賞与・各種手当も含まれます。評価制度がなければ、この「同等性」を証明することが困難になります。
キャリアパス設計との連動
前回の記事で触れた通り、特定技能1号から2号への移行には「実務経験」と「技能水準」の証明が必要です。評価制度は、この技能向上のプロセスを可視化し、本人のキャリア形成をサポートする役割も担います。
2. 外国人材向け等級制度の設計方法

等級制度とは、従業員を能力・職務・役割によって区分し、給与や処遇の根拠とする仕組みです。特定技能外国人向けには、シンプルで理解しやすい等級設計が重要です。
推奨:4段階等級モデル
複雑な等級制度は言語の壁でかえって混乱を招きます。以下のような4段階モデルが実践的です。
等級 | 名称 | 対象者の目安 | 主な役割・期待値 |
等級1 | 基礎レベル | 入社~6ヶ月 | 指示を受けて基本業務を遂行。OJTで技能習得中。安全ルール遵守。 |
等級2 | 実務レベル | 6ヶ月~2年 | 一人で標準業務を遂行。品質・納期を守れる。簡単な判断ができる。 |
等級3 | 独り立ちレベル | 2年~4年 | 応用業務や複数工程を担当。後輩指導も開始。業務改善提案ができる。 |
等級4 | リーダーレベル | 4年以上 | チームリーダー補佐。複雑な業務判断。新人教育担当。特定技能2号相当。 |
業種別の等級設定例
【介護分野】
等級 | 業務内容 |
等級1 | 見守り・生活支援補助 |
等級2 | 食事・入浴介助の単独実施 |
等級3 | 夜勤対応・認知症ケア |
等級4 | ユニットリーダー補佐・新人指導 |
【製造分野】
等級 | 業務内容 |
等級1 | 単一工程の作業 |
等級2 | 複数工程の習熟・品質管理 |
等級3 | ライン全体の理解・工程改善 |
等級4 | 班長補佐・技能指導 |
【外食分野】
等級 | 業務内容 |
等級1 | 調理補助・簡単な接客 |
等級2 | 単独での調理・オーダー対応 |
等級3 | メニュー提案・シフトリーダー |
等級4 | 店舗運営補佐・スタッフ教育 |
等級制度設計の3つのポイント
ポイント | 内容 |
言語表記の工夫 | やさしい日本語で記載し、主要な母国語(ベトナム語・インドネシア語・ミャンマー語など)を併記 |
昇格要件の明確化 | 抽象表現を避け、具体的な行動ベース(例:月1回以上の業務改善提案)で定義 |
日本人従業員との整合性 | 基本は同一の等級制度を使用し、言語サポートや文化配慮を追加して対応 |
3. 評価指標の設定|何を評価するのか

評価指標は大きく分けて5つのカテゴリーで構成します。
① スキル・技能評価(40%)
評価区分 | 内容 |
評価項目(40%) | 業務遂行能力/技術習得度/業務スピード/品質意識 |
業務遂行能力 | 担当業務を正確に完遂できるか |
技術習得度 | 新しい技能をどの程度習得したか |
業務スピード | 標準時間内に作業できているか |
品質意識 | ミス・不良の発生率 |
評価方法 | 実技テスト/資格取得状況(特定技能評価試験など)/上司による行動観察記録 |
② 安全・コンプライアンス遵守(20%)
評価区分 | 内容 |
評価項目(20%) | 安全ルールの遵守/報告・連絡・相談/職場規律の遵守 |
安全ルールの遵守 | 保護具の着用、作業手順の遵守 |
報告・連絡・相談 | 事故・トラブル・疑問点の適切な共有 |
職場規律の遵守 | 遅刻・欠勤などの勤務状況 |
重要ポイント | 減点方式ではなく加点方式を採用し、ヒヤリハット報告や安全提案などの積極的行動を評価 |
③ 勤怠評価(15%)
評価区分 | 内容 |
評価項目(15%) | 出勤率/シフト対応の柔軟性/時間管理能力 |
出勤率 | 欠勤・遅刻・早退の頻度 |
シフト対応の柔軟性 | 繁忙期・急な変更への対応状況 |
時間管理能力 | 出社・休憩・作業時間の管理ができているか |
注意点 | 文化により時間感覚が異なる場合があるため、初回評価前に「時間厳守」の重要性を丁寧に説明する |
④ コミュニケーション能力(15%)
評価区分 | 内容 |
評価項目(15%) | 日本語能力の向上/チーム内での情報共有/顧客対応の適切性/業務指示の理解度 |
日本語能力の向上 | 日本語レベルの向上(例:N3→N2) |
情報共有 | チーム内で必要な情報を適切に共有できているか |
顧客対応 | 接客・応対が業務基準に沿っているか |
指示理解力 | 通訳なしでも業務指示を理解できるか |
評価の工夫 | 流暢さではなく「必要な意思疎通ができるか」を重視し、ジェスチャーや翻訳アプリの活用も評価対象とする |
⑤ 行動特性・態度評価(10%)
評価区分 | 内容 |
評価項目(10%) | 積極性/協調性/改善提案/後輩指導への協力 |
積極性 | 自ら学ぼうとする姿勢、業務への前向きな取組み |
協調性 | チームワークを意識した行動ができているか |
改善提案 | 業務改善の提案・実施状況 |
後輩指導 | 新人や後輩への指導・サポートへの協力 |
文化的配慮 | 発言量だけでなく、提案内容の実現や行動面も評価に含める |
4. 評価と給与テーブルの連動設計

評価結果を給与に反映させる仕組みを明確にすることで、納得感が生まれます。
基本給与テーブルの例(製造業の場合)
等級 | 基本給(月額) | 想定年収(賞与込) | 昇給幅(年) |
等級1 | 180,000円~ | 2,340,000円~ | 6,000~12,000円 |
等級2 | 200,000円~ | 2,600,000円~ | 8,000~15,000円 |
等級3 | 230,000円~ | 2,990,000円~ | 10,000~18,000円 |
等級4 | 270,000円~ | 3,510,000円~ | 12,000~20,000円 |
※地域・業種により最低賃金を考慮して調整が必要です。
評価ランクと昇給額の対応
半年または1年ごとの評価結果に応じて、昇給額を設定します。
評価ランク | 評価基準 | 昇給額(年間) | 賞与係数 |
S評価 | 目標を大幅に超過達成 | +18,000円 | 基本給×4.0ヶ月 |
A評価 | 目標を十分に達成 | +12,000円 | 基本給×3.5ヶ月 |
B評価 | 目標を概ね達成 | +8,000円 | 基本給×3.0ヶ月 |
C評価 | 目標達成が不十分 | +4,000円 | 基本給×2.5ヶ月 |
D評価 | 著しく目標未達 | 昇給なし | 基本給×2.0ヶ月 |
手当の設定
給与テーブルには、以下の手当も含めて設計します(日本人と同等であること)。
手当名 | 支給内容 |
技能手当 | 資格取得や特定技能2号へ移行した場合(月5,000~20,000円) |
役職手当 | リーダー職に就いた場合(月10,000~30,000円) |
資格手当 | 業界資格取得者(月3,000~10,000円) |
皆勤手当 | 無遅刻・無欠勤の場合(月5,000円) |
夜勤手当・残業手当 | 労働基準法に基づき支給 |
5. 昇給・昇格の基準例

昇格判定の流れ
年2回の評価サイクルを推奨します。

昇格要件の具体例
等級1 → 等級2への昇格
✅ 在籍6ヶ月以上
✅ 直近2回の評価でB評価以上
✅ 担当業務を単独で遂行可能
✅ 安全研修を受講済み
✅ 日本語能力N4以上(推奨)
等級2 → 等級3への昇格
✅ 在籍1年6ヶ月以上
✅ 直近2回の評価でA評価以上を1回以上取得
✅ 複数業務の習熟
✅ 後輩への指導経験あり
✅ 業務改善提案を1件以上実施
等級3 → 等級4への昇格
✅ 在籍3年以上
✅ 直近3回の評価でA評価以上を2回以上取得
✅ リーダー業務を補佐できる
✅ 新人教育を担当した実績
✅ 日本語能力N2以上(推奨)
✅ 特定技能2号相当の技能試験合格
昇格時の処遇変更
昇格が決定した際は、以下を明確に伝えます。
📄 昇格通知書の交付(日本語+母国語)
💰 昇給額の明示(月額・年収ベース)
🎯 新しい役割・期待値の説明
📅 次の目標の設定
6. 評価面談の進め方|言語差への対応

評価面談は、評価結果を伝えるだけでなく、相互理解とモチベーション向上の場です。
面談の基本構成(30~45分)
ステップ | 内容 |
① アイスブレイク(5分) | 「最近の生活はどう?」などの雑談で緊張をほぐす |
② 自己評価の確認(10分) | うまくできた仕事・難しかった点を本人から聞き、感じ方を理解する |
③ 評価結果の説明(15分) | 具体的なエピソードを用いて評価理由を説明(抽象的表現は避ける) |
④ 改善点と次の目標設定(10分) | 一方的に指摘せず、改善策と次の目標を一緒に考える |
⑤ 質問・相談タイム(5分) | 給与・キャリア・生活面などの質問や相談を受け付ける |
言語差への5つの対応策
対応ポイント | 内容 |
やさしい日本語を使う | 専門用語を避けて言い換える(例:「改善余地がある」→「もっと良くできる」/「コンプライアンス」→「ルールを守ること」) |
翻訳資料を準備する | 評価シートは母国語版も用意(ベトナム語/インドネシア語/ミャンマー語/中国語/タガログ語) |
通訳を活用する | 重要な評価面談では通訳・バイリンガルスタッフが同席(守秘義務を徹底) |
視覚資料を活用 | グラフ・写真・図解(例:評価レーダーチャート)で理解を促進 |
録音・議事録を残す | 本人同意の上で記録を残し、後日の確認で誤解を防止 |
7. よくある質問(FAQ)

Q1. 日本人とまったく同じ評価制度でないとダメですか?
A: 基本的には同じ制度を適用すべきですが、「評価項目の説明の丁寧さ」「面談時の言語サポート」など、運用面での配慮を加えることは問題ありません。ただし、「外国人だから昇給が遅い」といった差別的運用は違法です。
Q2. 評価が低い場合、どう伝えれば傷つけずに済みますか?
A: 文化によっては、直接的な指摘を避ける傾向があります。以下のような伝え方が有効です。
区分 | 内容 |
NG例 | 「あなたはダメです」 |
OK例 | 「この部分は良かったです。次はここをもっと良くしましょう」 |
ポイント | 改善点は1~2点に絞り、具体的なサポート方法も併せて提示する |
Q3. 文化の違いで「評価基準が合わない」と言われたら?
A: 例えば、「積極的に発言する」ことが評価される日本企業の文化に、控えめな文化圏の人材が戸惑うケースがあります。この場合:
評価基準の意図を丁寧に説明する
「書面での提案」など、別の表現方法も認める
文化研修を実施し、相互理解を深める
Q4. 評価者(日本人上司)のトレーニングは必要ですか?
A: 絶対に必要です。 評価者には以下の研修を実施しましょう。
異文化理解研修
評価バイアス防止研修(ハロー効果、ステレオタイプなど)
やさしい日本語研修
労働法令の理解(同一労働同一賃金など)
評価者が無意識の偏見を持っていると、公平性が損なわれます。
8. まとめ|評価制度は「共に成長する仕組み」

特定技能外国人材の評価制度は、単なる給与決定の手段ではありません。それは企業と外国人材が共に成長するための対話の仕組みです。
評価制度設計の7つのステップ

評価制度がもたらす3つの価値
効果 | 内容 |
定着率の向上 | キャリアの見通しが立ち、長期就労意欲が高まる |
生産性の向上 | 明確な目標設定により、日々の業務への取り組みが改善 |
法令遵守とリスク回避 | 同一労働同一賃金を説明・証明でき、労務トラブルを予防 |




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