top of page

特定技能外国人のキャリアパス設計|1号→2号の移行要件と企業が整備すべき制度を解説

  • sou takahashi
  • 12月5日
  • 読了時間: 12分
特定技能外国人のキャリアパス設計|1号→2号の移行要件と企業が整備すべき制度を解説

目次:


特定技能人材を採用しても、「配属後の育成やキャリアパスまで設計できていない」と感じている企業は少なくありません。特に1号から2号への移行は、在留継続だけでなく“長期戦力化”に直結する重要なプロセスです。移行要件や試験対策、リーダー経験の積ませ方など、企業が整備すべきポイントを理解しておくことで、離職率は大きく変わります。


本記事では、特定技能人材のキャリアパスをどのように構築し、2号移行まで導くのかを、企業目線でわかりやすく整理します。


1.特定技能で「キャリアパス」が重要視される理由


特定技能で「キャリアパス」が重要視される理由

特定技能制度は、即戦力となる外国人材を迎え入れられる点が魅力ですが、実際には「配属後のキャリア設計がないまま採用を進めてしまう企業」が少なくありません。人材不足を補うだけの運用では、採用後の定着や戦力化が進まず、受け入れ側の負担が増える結果になりがちです。


特定技能1号は最長5年の在留が認められ、2号へ移行すると在留期間の上限がなくなります。つまり“短期雇用前提の制度ではなく、企業と外国人材が長期的に成長していく仕組み”として設計されています。ここを理解できている企業はまだ多くありません。


今では求職者側も、単に働ける場所ではなく「将来どんなポジションを目指せるのか」を重視する傾向が強まっています。リーダー職へのステップ、2号取得のサポート体制、スキル評価の透明性など、キャリアが見える企業ほど選ばれやすくなっています。


特定技能で「キャリアパス」が重要視される理由

キャリアパスを具体的に示すことは、離職防止・育成計画・採用競争力のすべてに直結します。受け入れ企業にとって、キャリア設計は“あれば良いもの”ではなく、“採用戦略の中心”に置くべきテーマになっています。


2.特定技能1号 → 2号への移行要件(業種別まとめ)


特定技能1号 → 2号への移行要件(業種別まとめ)

特定技能2号への移行には、業種ごとに細かな条件が設定されています。採用前の段階で、自社が求めるポジションと2号要件が合致しているかを確認しておくことが欠かせません。


共通要件(企業が理解すべきポイント)


特定技能1号から2号への移行には、まず一定期間の実務経験が必要です。多くの分野では「管理・指導ができるレベル」での実務が求められ、単なる作業従事だけでは要件を満たせないケースが目立ちます。 


さらに、特定技能2号評価試験の合格が必須で、分野によっては技能検定1級など、より高度な試験が条件になる場合もあります。企業側は、従業員の育成計画の中に“試験に合格できる環境づくり”を組み込む必要があります。


加えて、適正な雇用環境の維持と、受け入れ体制が整っていることも重要です。社会保険加入状況や労働条件の明示、トラブル時の支援体制など、入管が確認するポイントは幅広くあります。 


移行手続き自体は「在留資格変更許可申請」となり、書類量が多く、スケジュール管理が欠かせません。企業が主導して準備を進めないと、本人の在留期限に影響が出る可能性があります。



業種別の主な違い(自動車運送業は2号なし)


業種別の主な移行要件

建設分野では、班長クラスの経験が求められ、特定技能2号評価試験または技能検定1級の合格が必要です。造船・舶用工業はグループリーダー経験が前提となり、こちらも1級相当の試験が要件です。 ビルクリーニングは現場管理者としての経験が必須で、技能検定1級レベルの合格が求められます。飲食料品製造業・農業・外食業・漁業などは、複数の従業員を指導しながら工程を管理した経験が欠かせません。


自動車整備は少し特異で、2級整備士資格または特定技能2号試験合格で移行可能となります。 一方、自動車運送業には現時点で特定技能2号が存在しないため、採用前からキャリアパスの設計が必要です。


いずれの分野でも共通して“管理者としての視点を持ち、指導できる人材であること”が求められます。企業側は、自社が求める職種が移行対象なのかを事前に把握し、採用段階からキャリア設計に組み込むことが非常に重要です。


ree

3.技能実習ルートとの比較(企業側のメリット/注意点)


技能実習ルートとの比較(企業側のメリット/注意点)

技能実習と特定技能は名称が似ているものの、制度の目的も在留期間も大きく異なります。採用後のキャリア構築がしやすいのは特定技能ですが、企業側に求められる責任や準備も増えるため、特徴を丁寧に把握しておくことが欠かせません。まずは両制度の根本的な違いを整理します。

項目

技能実習

特定技能

目的

国際貢献(育成が中心)

日本の人手不足に対応する労働力

試験

原則なし

分野別技能試験+日本語試験が必須

在留期間

最長5年

1号:最長5年/2号:制限なし

家族帯同

不可

2号で可能

キャリア性

低い(実習中心)

明確なキャリアパスが求められる

技能実習は「育てて母国へ戻す」仕組みであり、企業は長期的な戦力として計画を立てにくい点があります。一方の特定技能は、2号まで進めば在留上限がなくなり、長期雇用の中核を担う人材として育成できます。企業にとっては、これが“将来のチームリーダー”を内部で育てられる大きなメリットになります。


ただし、特定技能は本人のキャリアを見据えた育成計画が欠かせません。配属したまま放置してしまうと、目標が描けず離職につながる恐れがあります。採用時点から「どんなスキルを身につけて、どのタイミングで2号を目指すか」を示せる企業こそ、ミスマッチを防ぎ、長く活躍してもらえる環境を整えられます。


4.企業として用意すべきキャリアパス(具体例)


企業として用意すべきキャリアパス(具体例)

企業が示すべきキャリアパスは、「技能向上」「リーダー経験」「業務範囲の段階設計」の3軸で構成すると分かりやすくなります。


① 技能向上ステップ


技能向上のステップは、外国人材が自分の成長を実感できる指標になります。最初は基礎作業から始まり、応用作業・専門作業へと広げ、最終的に指導者レベルへ到達する流れを明確に示すことが大切です。 


企業側は、このステップを“言葉だけ”で示すのではなく、評価表やスキルマップを用いて可視化する必要があります。例えば、「溶接の基礎技術ができる」「品質チェックが単独でできる」「新人のOJT担当ができる」など、段階ごとの基準を設定すると、本人が次に何を目指せばよいかを理解しやすくなります。 


前述の通り、特定技能は試験合格が欠かせない制度であるため、日常業務と試験範囲を結びつけた育成がポイントになります。成長が見える環境を整えることで、離職防止にもつながります。


② リーダー職への道筋


特定技能2号の要件には、多くの分野で「指導経験」が含まれています。そのため、班長・ラインリーダー・チームリーダーといった“管理経験を積めるポジション”を明確に設定することが欠かせません。 


企業としては、単に肩書きを与えるのではなく、「いつ・どの業務を任せるか」「どの水準で評価するか」を伝えることで、本人がステップを踏んで成長できる状態をつくれます。 リーダー経験を組み込むメリットは、2号移行がしやすくなるだけではありません。


チーム全体の生産性向上、コミュニケーションの活性化など、現場に良い影響を与えます。本人にとっても「将来の役割が見える」ことでモチベーションが高まり、企業への定着にもつながります。


③ 習熟度に応じた業務範囲の設定


業務範囲を段階的に広げていく設計は、2号移行を視野に入れたキャリアパスの重要な要素になります。特定技能2号では、多くの分野で工程管理や従業員への指導経験が求められるため、試験合格に必要な業務経験を逆算して配置を考えることがポイントです。 


ただし、習熟度に合わない無理な配置はトラブルを招きます。特に危険作業や高度な業務は、法令上の制限が存在することもあるため、適切な手順で段階を踏むことが欠かせません。 習熟度に沿った業務の割り当てを行うことで、本人の成長スピードに合わせた育成が可能になり、現場の安全確保にもつながります。


さらに、「どの業務を経験すると試験に強くなるのか」を示すことで、学習の意欲も高まります。


企業が用意すべきキャリアパス

5.制度が許容する範囲はどこまで?“誤解されがちな”キャリア設計


制度が許容する範囲はどこまで?“誤解されがちな”キャリア設計

特定技能のキャリア設計では、制度の正しい理解が欠かせません。現場でよく耳にする誤解がそのまま運用に反映されてしまうと、外国人材だけでなく企業側にもリスクが及びます。まず知っておきたいのは、「1号=単純労働しかできない」という認識は誤りという点です。実際には、業務区分によって高度な技能が求められるケースもあり、成長の幅は大きく広がっています。


一方で、「2号は希望すれば誰でも目指せる」という考えも誤解です。移行できるのは一部の業種に限られ、必要な実務経験と試験合格を証明できる企業体制も欠かせません。また、指導経験に関して「日本人スタッフを部下に持たないと評価されない」と思われがちですが、特定技能同士の指導関係でも問題ありません。大切なのは“現場で工程や作業を管理した事実”です。


さらに、「5年以内に必ず2号に移行させなければならない」という考えも誤解されやすい部分です。移行は義務ではなく、あくまで本人の適性と企業が求める役割に応じて判断すべきものです。同様に、「給与を上げれば2号にできる」という発想も危険で、2号移行においては技能要件が最重要視されます。


こうした誤解をそのまま放置すると制度違反やミスマッチにつながりかねません。企業側が制度のラインを正しく理解し、無理のないキャリア設計を行うことで、特定技能人材が安心して成長できる環境が整います。


ree

6.キャリア面談の方法(企業がやるべき実務)


キャリア面談の方法(企業がやるべき実務)

キャリア面談を形だけで終わらせないためには、仕組みと記録を整えることが欠かせません。まず着手すべきは「年2回以上の定期キャリア面談」です。現状の業務理解度や困りごとを丁寧に確認し、次の半年で到達すべき目標を互いに明確にします。形式的なヒアリングでは効果が薄く、対話の質が重要になります。


ここで役立つのが「スキルチェックシート」です。運転スキル、安全知識、コミュニケーション、日本語力などを項目ごとに評価できるため、本人が成長を実感しやすく、企業側も必要な支援を視覚的に把握できます。多くの企業で曖昧になりがちな“できている/できていない”の判断が統一されるため、評価の公平性にもつながります。


そして重要なのが「試験までのロードマップ作成」です。具体的に、特定技能1号の期間中に学ぶ内容、技能試験の受験タイミング、必要な実務経験の積み方を整理し、従業員と共有します。ロードマップがない状態では、本人が何を目指して努力すべきか分からず、途中離脱のリスクも高まります。


加えて「日本語学習支援の制度化」も欠かせません。勤務内学習を週1回確保したり、LT制度(Learning Time)として学習時間を福利厚生枠で付与したりすることで、語学力の底上げが期待できます。


キャリア面談の 実務ポイント

最後に、多くの企業が後回しにしてしまうのが「実務経験証明書」の整備です。特定技能2号申請時には、職務内容・担当業務・技能の習熟度を証明する書類が必須になります。日々の業務記録や担当業務の履歴を細かく残しておくことで、申請時に困らず、正確なキャリアの積み上げが示せます。


じっくり取り組めば離職防止にも直結するため、キャリア面談は“育成の中心”として取り組む姿勢が求められます。


7.給与テーブルの設計例(シンプルなモデル)


給与テーブルの設計例(シンプルなモデル)

給与テーブルをシンプルに整理すると、特定技能人材の育成計画が立てやすくなります。まずは技能レベルを段階的に区分し、役割と給与を紐づける方法が分かりやすい構成です。例えば次のようなイメージになります。

レベル

役割・技能

目安給与

Lv1

基礎作業(点呼理解、基本運転、積み下ろし補助など)

○○万円

Lv2

応用作業(単独運行、ルート理解、安全対応の習熟)

○○万円

Lv3

専門作業(大型・特殊対応、事故防止の高度判断)

○○万円

Lv4

指導者(2号要件に該当するレベル、育成・指導ができる)

○○万円

昇給の基準は曖昧にせず、「技能試験の合格」「担当できる業務範囲の拡大」「後輩への指導実績」など明確な指標を設定することが重要です。こうした基準があることで、本人も何を目指せばよいかを把握しやすく、企業側も公平な評価を行えます。


さらに大切なのが「同一労働同一賃金」の視点です。同じ業務を同じレベルで行う外国人・日本人の賃金差を不当に広げないことが信頼関係を支えます。給与テーブルを可視化して共有するだけで、制度の透明性が高まり、離職防止にもつながる実務的な仕組みになります。


8.FAQ(よくある質問)


FAQ(よくある質問)

Q1. 特定技能1号から2号へ移行するにはどうすればよい?


特定技能2号への移行には、分野ごとに定められた「技能試験の合格」と「一定の実務経験」が欠かせません。要件がそろった段階で在留資格変更申請を行い、審査を経て2号へ移行できます。企業側の証明書類の準備も重要です。


Q2. 1号の在留期間が終わるとどうなる?


特定技能1号は更新を重ねることで最長5年まで在留できます。5年を満了すると1号のまま延長はできません。適性があれば2号への移行を目指し、移行できない場合は帰国が基本となります。早めにキャリア設計を共有しておくことが大切です。


Q3. 特定技能2号は永住申請できる?


特定技能2号は永住申請に必要な「居住年数」の対象に含まれます。そのため、条件を満たせば2号は永住取得のルートとなり得ます。長期的に働いてもらいたい企業にとって、2号を活用した人材定着戦略は大きなメリットになります。


Q4. 特定技能1号の提出書類は?


在留資格変更許可申請書、雇用契約書、試験合格証明書、支援計画書、勤務条件を示す資料などが必要になります。書類の不備は審査遅延につながるため、企業側の管理体制が欠かせません。日頃から記録を整えることがスムーズな運用のポイントです。


Q5. “技能実習からの移行”は何が違う?


技能実習は育成が目的ですが、特定技能は「即戦力として働く」ことが前提です。そのため移行後は、キャリアパス設計や評価制度の整備が求められます。単なる延長ではなく、企業側の受け入れ姿勢が大きく変わる点が最大の違いです。


9.まとめ:企業が今すぐ整備すべきポイント


まとめ:企業が今すぐ整備すべきポイント

特定技能制度を活かすには、採用 → 配属 → 実務 → 育成 → 2号移行までを一貫して管理できる体制づくりが欠かせません。とくにキャリアパスが曖昧な企業では、本人の将来像が見えず離職につながりやすい傾向があります。


だからこそ、早い段階でスキルマップや評価基準を整備し、成長の道筋を明確に示すことが大切です。また、技能試験や実務経験の要件は、普段どのような業務を任せ、どのように育成しているかによって達成度が大きく変わります。


こう考えると、育成計画の質が2号移行の可否を左右するといっても過言ではありません。長期的に働ける環境を設計できる企業ほど、外国人材から選ばれやすくなり、採用競争力も高まります。


ree

コメント


bottom of page