特定技能の賃金を徹底解説|支払い実務・最低賃金・契約の注意点まとめ
- sou takahashi
- 9月7日
- 読了時間: 13分

目次:
特定技能社員を雇用する企業にとって、賃金の支払いはもっとも重要なポイントのひとつです。「日本人と同等以上」が原則とされる中で、最低賃金や残業代、手当の取り扱いを誤ると、在留資格の取り消しやトラブルにつながるリスクも。
本記事では、制度に基づいた正しい賃金設定のポイントや契約時の注意点、実務に役立つ様式の記載方法までをわかりやすく解説します。
1.特定技能の賃金の支払いとは何か

特定技能の賃金支払状況の現状
特定技能社員への賃金支払いは、全体的に「日本人と同等以上」が基本とされており、多くの企業がその基準を意識しています。特定技能制度は「即戦力」としての海外人材の雇用を前提としているため、技能実習生と比べて高めの給与水準で設定される傾向にあります。
とはいえ、実態としては業種や地域によって支払い状況にばらつきが見られるのも事実です。特に地方の中小企業では、最低賃金ギリギリの水準に設定されているケースもあります。一方、都市部や大手企業では、日本人とほぼ同等、またはそれ以上の月給や手当が支給される例も少なくありません。

また、残業代の支払いや交通費・住宅手当の取り扱いに関しても対応が分かれています。中には、残業代がきちんと明記されていなかったり、控除の内訳が不透明なまま契約されている事例もあり、こうした点は後々トラブルにつながるリスクがあります。
そのため、現状としては制度に沿った支払いを行っている企業も多い一方で、すべての企業が適切に運用しているとは限らないという点に留意が必要です。
特定技能運用要領における支払いの原則
特定技能制度の運用要領では、賃金の支払いにおいて「日本人と同等以上の待遇を保障すること」が明確に求められています。これは単に給与額だけでなく、手当、昇給制度、福利厚生、労働時間、休暇などあらゆる待遇面が対象です。
この原則が設けられている理由は、海外人材だからという理由で労働条件を不当に引き下げることを防ぐためです。特定技能は労働力不足を補う制度であり、日本人と同じように就労し、生活を支える存在である以上、不平等があってはならないという考え方が背景にあります。

たとえば、同じ工場で働く日本人従業員が通勤手当を受け取っているにもかかわらず、特定技能社員だけが対象外となるようなことは原則許されません。また、ボーナス(賞与)についても、日本人に支給している場合は、同じ条件での支給が求められます。
注意点として、形式的には日本人と同じ賃金額にしていても、実際には業務内容に差があったり、手当が少なかったりする場合は「同等」とみなされないことがあります。支払いの根拠や内訳を明確にし、入管にも説明できるように準備しておくことが大切です。
賃金規定と雇用条件書の作成ポイント
賃金に関するトラブルを防ぐためには、事前にしっかりとした「賃金規定」と「雇用条件書」を用意しておくことが不可欠です。これらの書類は、企業と特定技能社員の間で交わされる労働契約の中核をなすものであり、入管手続きにも必須の書類です。
まず、賃金規定には、基本給・残業手当・深夜手当・通勤手当など、各種手当の支給基準や支払方法を明確に記載する必要があります。

できれば、日本人社員と共通のフォーマットで整備し、海外人材用に母国語翻訳も用意するのが理想です。
一方で雇用条件書は、雇用契約の詳細を個別に記載する文書です。

勤務地、業務内容、勤務時間、休日、賃金額、支払日など、労働条件を具体的に記すことが求められます。ここでのポイントは、「口頭説明に頼らず、書面で明確に残すこと」です。契約書にはサインをもらうだけでなく、内容を母国語でしっかりと説明することも重要です。
前述の通り、支給額や控除項目についての理解不足はトラブルの火種になります。そのため、特定技能社員本人が内容をきちんと理解し、納得したうえで契約を結べるよう、準備と説明に手を抜かないことが信頼関係の構築にもつながります。
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2.特定技能の賃金の支払いで必要な準備

雇用契約と条件書の母国語対応とは
特定技能社員との雇用契約では、契約書および雇用条件書を母国語で用意することが求められています。これは、海外人材本人が内容を正しく理解し、納得したうえで契約を結ぶことが目的です。単に形式的に署名をもらうだけでは、後々の誤解やトラブルにつながりかねません。

出入国在留管理庁では、ベトナム語・中国語・ネパール語・インドネシア語など複数の言語で翻訳された参考様式を公開しています。これらを活用することで、言語の壁を越えて契約内容を伝えることが可能です。
特に注意すべき点は、単に「翻訳すればよい」というわけではなく、対面での説明と理解確認も必要であるという点です。契約書を母国語で準備したとしても、説明を怠ると「聞いていなかった」と言われてしまうことがあります。そのため、雇用契約や雇用条件書の内容は、口頭でも母国語で丁寧に説明する機会を設けましょう。
さらに、本人が理解したうえで署名した証拠として、「事前ガイダンスの確認書」も併せて提出するのが一般的です。このように、母国語対応は書面・口頭の両面から丁寧に行うことが求められます。
特定技能の届出が必要な変更事項
特定技能社員の雇用に関して、一定の変更があった場合には、14日以内に出入国在留管理庁への届出が義務付けられています。これを怠ると、企業側が制度違反とみなされるリスクがあるため注意が必要です。
具体的な変更事項には、以下のようなケースが含まれます。
基本給や手当など賃金条件の変更
勤務地の追加・変更
業務内容の大幅な見直し
勤務時間や休日の変更
雇用契約の終了や解雇
雇用主の社名・所在地変更
たとえば、工場の統合により勤務地が変わった場合や、給与体系を見直して基本給や残業代の計算方法が変わった場合なども届出対象になります。軽微に見える変更でも、契約書に明記されている内容であれば原則として報告が必要です。
届出の際には、専用の様式を使用し、変更後の契約書や説明資料を添付する必要があります。変更が発生した段階で速やかに内容を確認し、事務的な準備を始めることが大切です。
支払い関連の様式と記入時の注意点
特定技能社員を雇用する際には、賃金に関する情報を正確に伝えるための様式がいくつか存在します。これらは、給与体系や労働条件の透明性を確保するうえで非常に重要な役割を果たします。
まず代表的なのが、「雇用条件書」および「報酬に関する説明書」です。雇用条件書では、賃金額、労働時間、手当の内訳、支払日、支払方法などを明記する必要があります。
報酬に関する説明書では、日本人従業員との比較を示す欄があり、「同等以上の待遇」であることを証明するための根拠を記載します。

記入時の注意点としては、以下の点が挙げられます。
賃金の内訳(基本給・残業代・手当)を明確に記載すること

控除項目(寮費・水道光熱費・税金など)を具体的に示すこと
記載内容と実際の契約・給与支払実態が一致していること
母国語での翻訳と説明を行った証拠を残すこと
また、計算が複雑になる変形労働制やシフト制などを導入している場合は、別紙で詳しく説明を添えるとより親切です。

手当や残業代の詳細な算出根拠が不明瞭だと、後から労使トラブルにつながる可能性もあるため、具体的かつ正確に記載することが求められます。
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3.特定技能の賃金支払いと最低賃金の関係

地域別・分野別の最低賃金をどう確認するか
特定技能社員を雇用する際、地域や分野ごとに定められた最低賃金を満たしているかどうかを事前に確認することは必須です。賃金が最低基準を下回ると、在留資格の申請が認められないだけでなく、行政指導や罰則の対象となる場合もあるため、慎重な確認が求められます。
最低賃金は、大きく分けて「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
地域別最低賃金は都道府県ごとに設定されており、厚生労働省や都道府県労働局のホームページで最新情報が公開されています。

特定最低賃金は、特定の産業分野において、より高い水準が求められるケースがあるため、該当分野の対象になっていないか確認が必要です。

たとえば、製造業や自動車整備、建設分野などでは、特定最低賃金が適用される地域があります。同じ県内でも地域や分野によって賃金基準が異なることがあるため、雇用予定地と職種に応じた正確な確認が重要です。
実務では、厚生労働省が発表する「最低賃金一覧」や各都道府県の労働局発行のリーフレットが参考になります。

また、給与改定や人事異動に伴い勤務地や職種が変わる場合にも、改めて最低賃金を見直すことが推奨されます。
最低賃金を下回った場合の企業リスク
特定技能社員に対して支払う賃金が、地域や産業における最低賃金を下回っていた場合、企業は重大なリスクを抱えることになります。単なる契約違反にとどまらず、労働基準法や入管法に抵触する恐れがあるため、軽視すべきではありません。
リスク項目 | 内容 |
未払い賃金の支払い命令 | 差額分の賃金支払い義務が生じ、遅延利息や付加金が発生する可能性あり |
在留資格への影響 | 報酬が最低賃金未満の場合、申請却下や在留資格取り消しの恐れ |
企業名の公表 | 悪質なケースでは社名が公表され、信用失墜・外国人雇用全体への悪影響が懸念される |
事前に労務担当者が最低賃金を正しく把握し、必要に応じて契約内容を見直すことで、こうしたリスクは十分に回避できます。
技能実習生との賃金相場の違い
特定技能社員と技能実習生では、賃金水準やその決定基準に大きな違いがあります。制度の目的が異なることから、雇用者としてはそれぞれの特徴を理解し、適切に対応する必要があります。

技能実習生の制度は、あくまで「技術の習得」を目的としたものであり、日本人と同等の賃金水準が厳密には求められていません。そのため、地域の最低賃金ギリギリで設定されることが多く、実際に技能実習生の多くが最低賃金付近で働いているのが現状です。
一方、特定技能は「即戦力としての就労」を前提とした制度です。したがって、報酬は日本人と同等以上であることが原則とされており、賃金水準は技能実習生より高く設定する必要があります。実務経験や日本語能力を評価したうえで、昇給制度を取り入れる企業も増えています。
たとえば、同じ建設業で働く場合でも、技能実習生が月額18万円程度に設定されるのに対し、特定技能社員は22~25万円といった賃金水準になるケースが見られます。

賃金だけでなく、待遇面や福利厚生でも格差が出やすいため、両者の違いを意識しながら制度設計を行うことが求められます。
4.特定技能の賃金支払いと制度設計

月給制の導入メリットと注意点
特定技能社員を雇用する際、月給制を導入する企業が増えています。月給制は、安定した収入を提示できるという点で、海外人材本人にとっても安心感がある制度です。
また、企業にとっても給与計算が簡略化され、勤怠管理の手間が軽減されるというメリットがあります。
たとえば、週ごとに労働時間が変動する現場でも、月額固定で支給すれば事務作業が一貫して行えます。結果として、毎月の賃金支払いがスムーズに進み、人事部門の負担も軽減されることが多いです。
ただし、注意点もあります。
注意点項目 | 内容 |
時間外労働の割増賃金 | 法定労働時間を超える場合、割増賃金の支払いが必要 |
固定残業代の明示 | 月給に残業代を含める場合は、内訳を明記し固定残業代制度の要件を満たす必要あり |
欠勤時の控除説明 | 欠勤による給与控除のルールを事前に説明し、給与明細への理解不足による混乱を防止すること |
割増賃金が発生するケースと計算方法
特定技能社員であっても、労働基準法に基づく割増賃金のルールは日本人と同様に適用されます。つまり、所定労働時間を超える時間外労働、深夜勤務、休日出勤などに対しては、通常の賃金とは別に割増分を支払わなければなりません。

具体的には、時間外労働(1日8時間、週40時間を超える労働)に対しては25%以上の割増賃金が必要です。
また、深夜勤務(22時〜翌5時)は25%、休日労働は35%以上の割増率が設定されています。
仮に時間外・深夜・休日が重なる場合には、割増率が合算されるため、支給額が大きくなることもあります。
計算方法は比較的シンプルで、【基礎時給×割増率×労働時間】で求められます。たとえば、基礎時給1,200円で深夜に3時間働いた場合、1,200円×1.25×3時間=4,500円が支払額になります。

割増賃金の未払いは労働トラブルの原因になりやすく、在留資格にも悪影響を及ぼす恐れがあります。したがって、就業規則や雇用契約書に割増賃金の考え方や支払方法を明確に定め、説明責任を果たすことが重要です。
家賃や交通費の負担は誰がするのか
特定技能社員を雇用する企業にとって、家賃や交通費の取り扱いはよくある課題のひとつです。負担の有無は法令で明確に決められているわけではありませんが、支援計画の中でどちらが負担するかを明示する必要があります。
項目 | 内容 |
家賃の取扱い | 一般的に本人負担。企業が全額・一部負担する場合は契約書や支援計画書に明記し、控除の説明も必要 |
交通費の支給 | 通勤手段・距離に応じて企業が全額または定額を支給。手当として支給する場合は賃金規定に明記が必要 |
最低賃金との関係 | 交通費が給与に含まれる場合は、支給後も最低賃金を下回らないよう配慮が必要 |
控除の原則 | 家賃・交通費の控除には本人の同意が必要。一方的な控除は不可 |
説明不足によって信頼関係が損なわれるリスクもあるため、入社前に丁寧な情報提供を心がけましょう。
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5.特定技能の賃金に関するよくある質問

賃金相場・基準について

残業・計算方法について

控除・経費について

トラブル対応について

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6.まとめ

特定技能社員の賃金支払いは、単に給与を決めるだけでなく、在留資格の維持や労使関係の信頼構築に直結する重要な要素です。
適正な賃金設定と明確な契約内容、母国語での丁寧な説明があってこそ、トラブルを防ぎ、長期的な雇用の安定が実現できます。最低賃金の確認や割増賃金の対応、控除項目の明示など、細かな実務対応にも注意が必要です。
制度を正しく理解し、海外人材にとっても企業にとっても納得のいく環境を整えることが、これからの国際的な人材活用の成否を左右するといえるでしょう。
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