以前より、自動車整備士の数が減少していると言われていました。近年はこの問題が深刻化されており、自動車整備士の確保は大きな課題となっています。
本記事では、自動車整備士が人手不足と言われる現状とその背景、人材確保に向けた取り組みについて解説していきます。
目次:
1.自動車整備士の現状
自動車整備士は10年前に比べると、減少しています。現時点で深刻化していると問題視されており、このままだと近い将来更なる人手不足になると予測されています。
近年の自動車整備士の推移や有効求人倍率について確認していきましょう。
1-1.自動車整備士の数
自動車整備士の人数は、平成24年度で346,051人となっており、令和3年度では334,319人です。10年間でおよそ1.2万人減少しています。
一方、整備要員数は平成24年度で401,099人、令和3年度で398,952人となっており2,000人ほど減少しています。
また、自動車整備事業場数も6年連続で減少しており、平成24年から令和3年までで400ほど減っています。
しかし、自動車保有数は約8,000万台前後でほぼ横ばいとなっています。事業場が減り、人手も減少しているなかで、保有数は変わらずといった現状です。また、近年ではハイブリット車や電気自動車の割合が増加しており、電子制御装置の点検や整備に係る知識や技能が重要になってくると想定されています。
自動車整備において、人手不足だけではなく多くの知識や技術が必要とされているため、一人の負担が以前よりも多くなると推測されます。
1-2.自動車整備士の有効求人倍率
有効求人倍率は、各分野において人手不足がどの程度なのかわかりやすく現れる指標とされています。
有効求人倍率が1より大きい場合、企業側の求人数が多く、1より小さい場合は働きたい人の方が多い状態です。
平成23年度の全職種における有効求人倍率は0.59となっており、これに対して自動車整備職種は1.07とそれほど高くありませんでした。
しかし、年々自動車整備士の有効求人倍率は上昇しています。
令和3年の全職種の有効求人倍率が1.05に対し、自動車整備職種は4.55となっており、全体に比べると約4倍も高い状況です。
1-3.自動車整備士が減少することで起こりうる事象
自動車は、個人使用だけではなく公共交通機関としてや流通など配達をする上で重要な役割を担っています。
必要な整備を行い、安全に走行するためにはなくてはならない存在です。
自動車整備士が減少してしまうと、さまざまな問題が起こってしまいます。一人一人に対する負担が多くなってしまうだけではなく、そのほかの分野にも影響を与える可能性も考えられるのです。
そのため、一刻も早く自動車整備職種の人材を確保する必要があります。
2.自動車整備士が不足している理由
自動車整備士が年々減少傾向となっている理由はいくつか挙げられます。自動車整備士のなり手が少ない、高齢化が進む、離職率の高さなどさまざまです。
理由について詳しく解説していきます。
2-1.若年世代の減少
自動車整備士が不足している理由として、近年、若年世代の整備士が減っているという点が挙げられます。
若年世代の整備士が減っているのは、少子化が理由と言われています。自動車整備士になるために自動車整備学校に進学し資格取得するのが一般的ですが、そもそも自動車整備学校へ入学する生徒数が減っているのです。
以前に比べると激減しており、定員に満たない人数と言われています。
また、職業選択の多様化に伴い、自動車整備士という職業を選択しないことも若年世代の減少につながっているでしょう。
さまざまな職業を選択できる時代だからこそ、体力的にキツそう、汚れてしまいそう、給与も低そうといったイメージがある自動車整備士を選ばないのです。
参考:日本自動車会議所
2-2.高齢化
若年世代が減少するとともに問題とされているのは、高齢化です。自動車整備関係従業員の平均年齢は、少しずつ高くなっています。
専業・兼業・ディーラーの整備要員の平均年齢は、平成28年度では44.3歳です。令和3年度には46.4歳と上昇しています。
2-3.離職率
自動車整備士の3人に1人は辞めてしまうとも業界内で囁かれています。厚生労働省の、雇用動向調査結果の概要では、自動車整備士の離職率は18%〜20%となっており離職率の高さが伺えます。
離職する理由として、
・労働時間や残業
・労働環境
・給与の低さ
・休みが少なく不定休
などが挙げられています。
キツい・汚い・危険といった部分も多いため、将来的にずっと働いていられるのかといった将来を不安視して転職するといった人もいるようです。
2-4.車離れ
以前まで、車に乗ることをステータスとしていた時代もありましたが、近年の価値観は異なります。
交通手段も多くなり、車を持たなくても難なく生活していけるため、車離れが加速しそれによって若年者が車に対しての興味関心も薄れてきました。
これらの背景から、自動車整備工場では人手不足が加速し続けていると言われています。
3.自動車整備士の人材確保に向けた取り組み
国土交通省では、自動車整備人材を確保するためにさまざまな取り組みの発表をしています。
3-1.国内人材の確保
平成25年から対策チームが設置され、人材不足解消の施策を練っています。2023年には、中間取りまとめが提示されています。
取りまとめは以下の通りです。
①人材の募集
・自動車整備士の認知度を想起段階から高めるため、若年層(小学生、中学生等)への自動車整備士のPR強化
・自動車整備士が職業として認識されて選択されるため、高校生等を対象とした整備工場における仕事体験
②人材の定着
・自動車整備業の職場環境改善を支援するため、自動車整備士の働きやすい職場ガイドラインを策定し、事業者の達成状況を評価
・短時間勤務、週休三日勤務などの自動車整備士の多様な働き方の提示について意識を喚起するため、国による経営者向けセミナーの開催
③人材の育成
・地域の整備事業者が合同で行う先進技術の研修に対する支援
・整備士養成施設におけるVR教材や最新車両(安全・環境技術搭載車両)等の導入に対する支援
これらの他に、整備士が働きやすいような労働環境や職場整備を目指しています。
自動車整備士は、清潔で快適な環境ではありません。そのなかで力が必要な作業も多く存在します。そのため女性より男性が行う仕事というイメージも強いです。
しかし、実際は女性整備士も1万人ほど存在します。働きやすい環境づくりによって、女性整備士を増やしていけるような取り組みを行なっています。
3-2.外国人材の活用
自動車整備分野では、外国人材を受け入れることで、人手不足の解消を図っています。
平成28年4月から、技能実習生の受け入れが開始されました。
技能実習制度は、日本の技術や技能、知識を途上国へ転移し、その地域の経済発展を促すためとされています。
そのため、技能実習1号は1年、技能実習2号と3号は各2年ずつとされています。
技能実習生によっては、母国へ帰る選択をする人もいるため、長期的に働ける人材としてカウントできない部分もあるでしょう。
令和元年9月には、特定技能1号の受け入れが開始されました。
特定技能は国内において、人材を確保することが困難な特定産業分野を対象に、一定の専門性や技術を有する外国人を受け入れることが目的とされています。
特定技能1号の在留期間は最長で5年となっています。
在留期間だけを見てみると、技能実習生と同様で長期的に働ける人材確保にならないと思われるかもしれません。
しかし、自動車整備分野は特定技能2号への追加も決定しています。
特定技能2号は在留資格の更新上限がなくなります。また、要件を満たせば家族の帯同や永住権の取得も可能となっています。
特定技能1号から2号へ移行した場合、永続的に働いてくれる人材確保へとつながるでしょう。
令和5年6月末時点で、自動車整備分野特定技能1号の受け入れ数は、
ベトナム:1,048名
フィリピン:719名
インドネシア:194名
ミャンマー:102名
インド:56名
カンボジア:27名
スリランカ:22名
その他:44名
となっています。
今後、さらに外国人材が増えていけば、自動車整備分野の深刻な人手不足解消につながると言えるでしょう。
4.自動車整備士の将来性
自動車整備士の将来性として、今後さらに整備士の需要が高まる可能性があります。慢性的な人手不足状態となっており、年齢の推移からもわかる通り、高齢化が進んでいます。
そのため、この先も整備士の需要はある状態が続くと言えるでしょう。
また、給与も年々上昇しています。
整備要員の年間平均給与は、専業・兼業・ディーラーで右肩上がりとなっています。今後も上がる可能性は十分にあると言えるでしょう。
将来性があり、給与も今後上がっていくのであれば、自動車整備分野で働きたいと思う人も増えてきます。
労働環境は、国内人材だけではなく外国人材においても同様に大切です。
特に、特定技能では認められれば転籍も可能となっています。入職した人材を手放さないためにも、企業側として環境整備は必要となります。
5.特定技能制度で外国人材が従事できる内容とは
需要の多い自動車整備分野ですが、その需要に応えるためには多くの働き手が必要になります。
人手不足になってしまうと、一人一人に対する負担が大きくなってしまい、それがきっかけで辞めてしまうという人も少なくありません。
そのためにも一刻も早く人材の確保が必要になってきます。
5-1.自動車整備分野で特定技能外国人が従事できる業務内容
特定技能外国人が従事できる業務内容は、日常点検整備・定期点検整備・分解整備の3つです。
ブレーキ液やエンジンオイル、冷却水の量の確認、タイヤの損傷状態の確認やエンジンの状態、ブレーキの状態の確認をするなどが挙げられます。
また、これらの関連業務を付随的に行うことも可能となっています。
5-2.特定技能評価試験の概要
特定技能制度は、特定技能評価試験の合格と日本語能力の評価、もしくは第2号技能実習を良好に修了する必要があります。
特定技能評価試験の概要として特定技能1号では、自動車のシャシ、エンジンに関する内容となっています。
学科は60分で
・構造、機能及び取扱法に関する初等知識
・点検、修理及び調整に関する初等知識
・整備用の試験機、計量器及び工具の構造、機能及び取扱法に関する初等知識
・材料及び燃料油脂の性質及び用法に関する初等知識
のなかから30問出題されます。
実技試験は20分で
・簡単な基本工作
・分解、組立て、簡単な点検及び調整
・簡単な修理
・簡単な整備用の試験機、計量器及び工具の取扱い
のなかから3問となっています。
特定技能2号の試験範囲は、特定技能1号と同様に自動車のシャシ、エンジンに関する内容となっており、1号に比べるとより深い知識が必要です。
学科は80分で
・構造、機能及び取扱法に関する一般知識
・点検、修理及び調整及び完成検査の方法
・整備用の試験機、計量器及び工具の構造、機能及び取扱法に関する一般知識
・材料及び燃料油脂の性質及び用法に関する一般知識
・保安基準その他の自動車の整備に関する法規
のなかから40問出題されます。
実技は30分となっており、
・基本工作
・点検、分解、組立て、調整及び完成検査
・一般的な修理
・整備用の試験機、計量器及び工具の取扱い
から3問です。
日常生活で必要な日本語能力のテストに合格しているか、すでに日本で何年か生活している人が対象となっているので、簡単な日本語であれば問題なくコミュニケーションが取れると考えられます。
特定技能制度を活用し、人材の確保をすることで負担軽減や環境改善につながるでしょう。
6.高まる需要に応えるべく外国人人材の採用を積極的に
自動車整備業界は、若年世代の担い手が少ない反面、需要は高まっています。外国人材を、雇い入れている企業も少なくありません。
人手不足解消の一手として、外国人材を雇ってみるのも選択の一つです。
特定技能に関する内容や、外国籍の人材を受け入れたいという場合はぜひご相談ください。
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